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グレン・グールド (3)

2008/01/23 Wed [Edit]

  ベートーヴェン:P協奏曲第5番

グレン・グールドのバッハ解釈、ピアノ演奏は当然素晴らしい。しかしこのように素直に感動できるのはワタシが他の演奏家のバッハの解釈・演奏をまともに聴いたことがないからかもしれない。
全集を買ってグレン・グールドのベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴いてみると、素人が言うのもおこがましいが、これがなんだか変であった。私が唯一知っている曲というとベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」だ。

ワタシがはじめてクラシック音楽をまともに聴いたのは、中学生のときにお袋が買ってきた「中学生のための音楽鑑賞」というクラシック・レコード10枚か15枚くらいのセット商品だった。ベートーヴェンやらモーツァルトの交響曲、協奏曲、ソナタやドボルザーク、ヴィヴァルディなんかの有名曲が入っていたように思う。もちろん当時フォーク・ロックに夢中だったワタシはクラシックなんかほとんど聴かなかったのである。しかしこの中で唯一高校・大学と進んでも時々聞いていたのがベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」だった。なぜこの曲が当時そんなに気に入ったのかよく判らないし、指揮者やピアニストが誰だったかも憶えていないのだが、この曲のレコードだけは下宿先にも持っていってたま〜に聴いていた。そして社会人になり、CD時代になって買ったクラシックCDも当然この曲だった。しかも3種類持っていた。
アシュケナージとメータ&ウィーン・フィル(1983)、ゼルキンと小澤征爾&ボストン交響楽団(1981)、バックハウスとイッセルシュテット&ウィーン・フィル(1959)の3枚だ。この3枚はそれぞれ素敵な演奏で好きなんだけれど、(ワタシにはどれが良い演奏かなんてことはわからない)時々思い出したように引っ張り出して聴いていたのはバックハウスの演奏が多かったように思う。従ってワタシにとってのベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」のリファレンスはバックハウスとイッセルシュテット(1959)盤ということになる。
 今回聞きなおしてみて、ゼルキンの優雅で穏やかな味わい深さに感銘を受けた。このときゼルキン78歳。バックハウスは峻厳で屹立している感じだ。このときバックハウス75歳。(もちろんこの二人はもっと若いときの演奏も残っています。)

ところがグールドの演奏はまるで違う。テンポ設定もえらくゆっくり入るし、ソロのパートなんて好き勝手に弾いてるんじゃないかと思えるくらいだ(汗)しかし、グールドにはグールドの「ピアノ協奏曲」に対する解釈、哲学・思想というものがあって、それがこの演奏に反映されているらしい。
「グレングールド、音楽、精神」ジェフリー・ペイザント著 より引用
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P141
「独奏者とオーケストラのための絢爛豪華な協奏曲を嫌うところに、競い合いに反発するグールドの姿勢は鮮明に現われている。......(中略)協奏曲は独奏者の「アイデンティティ」を強調し、独奏者はオーケストラと競合する状況に放り出され、すべてが見せ物となるように仕組まれているという。」
P142-143
「協奏曲の本質は競合性と攻撃性であり、聴衆の期待は演奏家の品位を落とす、と彼は主張し、こう述べる--
 私たちは協奏曲での主人公の役割を重視しすぎています。また、オーケストラ対独奏者や、個人対大衆や、トーヴィ提唱の男性的表現対女性的表現といった二元論もそうです。これは大きな間違いです。(Canversations with Glenn Gould ;Beethoven ,BBC 1966)」
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そしてグールドがこの二元論を弱めようとした有名な事例としてジェフリー・ペイザントは以下の二例をあげる。
1.1962年 バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニックとのコンサートでの確執。テンポの設定で合意できず、演奏前にバーンスタインが聴衆の前で彼らには不本意な解釈であると声名を読み上げてから演奏したという有名なエピソード。このときの曲はブラームス ピアノ協奏曲第1番
2.1966年 このストコフスキー指揮アメリカ交響楽団とのベートーヴェンピアノ協奏曲第5番 「皇帝」の録音セッション。ストコフスキーとは合意の上で、ピアノパートを伴う交響曲としてこの協奏曲を扱った。
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P143-144
「グールドは言う--
 協奏曲のいちばん悪いところは、聞き手をないがしろにしている点です。聞き手には外向きのプロセスよりも、内向きのプロセスを認識させるべきだと私は思います。もちろん、舞台で発揮される名人芸と自己顕示に混じるものはどれも外向きであるか、外向きの態度を導きます。しかしそれは、古めかしい言葉を用いれば、罪深い(sinful)ですね。(Broadcast,BBC 1969)」
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1955年録音の「ゴルトベルク変奏曲」がコロムビア・レコードから1956年に発売され、大変な評判を呼びベストセラーになって一流ピアニスト入りしたグールドであるが、オーケストラと初共演したのも同じ年だった。
以下ベートーヴェンピアノ協奏曲の演奏とレコーディング年譜(今わかった分だけ)

1956年3月 ポール・パレイ指揮デトロイト交響楽団 ベートーヴェンピアノ協奏曲第四番
1957年1月 レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル ベートーヴェンピアノ協奏曲第二番(同年レコード・リリース)
1957年5月 カラヤン指揮ベルリン・フィル ベートーヴェンピアノ協奏曲第三番(輸入盤CDは出ている)
1958年4月 Vladimir Golschmann指揮 コロンビア交響楽団 ベートーヴェンピアノ協奏曲第一番(同年レコード・リリース)
1959年5月 レナード・バーンスタイン指揮 コロンビア交響楽団 ベートーヴェンピアノ協奏曲第三番(1960年レコード・リリース)
1959年5〜6月 ヨーゼフ・クリップス指揮ロンドン交響楽団 ベートーヴェンピアノ協奏曲連続演奏会 第一〜四番(第五番は急病のためキャンセル)
1961年 レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル ベートーヴェンピアノ協奏曲第四番(同年レコード・リリース)

※1964年3月28日のシカゴのリサイタルを最後に演奏会活動を引退。(発表したのは3年後の1967年)以後録音演奏に専念。

1966年 レオポルド・ストコフスキー指揮アメリカ交響楽団 ベートーヴェンピアノ協奏曲第五番(同年レコード・リリース)
1970年 カレル・アンチェル指揮 トロント交響楽団 ベートーヴェンピアノ協奏曲第五番(レコード・リリース)

※1957年のカラヤンとの共演では普通の演奏だといううわさ。(未聴)
※1970年の協奏曲第5番はテンポも普通で意外といううわさ。(未聴)

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以上の情報を頭に入れて聴くとなるほどと思えないこともない。すくなくとも初めて聴いたときの違和感はだいぶ薄れてきた。他人がなんと言おうと「これがわしのベートーベンじゃ」という主張は素晴らしい。それも天才ピアニスト・グールドだからこそなんだけど。


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